※本記事は、Canadian Mining Report にて Ben McGregor 氏が執筆した内容を翻訳・再構成したものです。
サウジアラビアは、同国西部のジャバル・サイードで約1億1,000万トンの鉱石が確認され、レアアースとウランが含まれていると発表しました。ただし、1億1,000万トンという数字はレアアースやウランそのものの量ではなく、あくまで鉱石の量です。世界の重要鉱物供給に影響を与えるには、品位や回収率だけでなく、分離・精製設備や顧客との長期契約など、多くの条件を満たす必要があります。
2026年9月14日、ウィーンで開催された国際原子力機関(IAEA)総会で、サウジアラビアのエネルギー相アブドゥルアジーズ・ビン・サルマン王子は、同国の重要鉱物資源について大きな発表を行いました。
サウジアラビア西部のマディーナ地方にあるジャバル・サイード・プロジェクトでの探査により、約1億1,000万トンの鉱石が確認されたというものです。一部の公式アラビア語資料では約1億1,400万トンとされています。
この鉱石にはレアアース、特に重希土類元素が高濃度で含まれているほか、ウランも有望な濃度で存在するとしています。
ただし、ここで重要なのは、約1億1,000万トンという数字がレアアースやウランそのものの量ではなく、それらを含む鉱石の量であるという点です。
ジャバル・サイードではすでに、サウジアラビアのMa’aden(マアデン)とカナダのBarrick Mining(バリック・マイニング)が50対50の合弁事業として銅鉱山を運営しています。
今回の発見によって、この地域が銅だけでなく、レアアースやウランを含む重要鉱物の新たな供給源となる可能性が浮上しました。
しかし、鉱石が存在することと、実際にレアアースやウランを商業生産できることは別の問題です。
世界の重要鉱物供給を変える存在となるには、鉱石の品位や回収率、処理・精製能力、経済性、政策など、複数の条件を満たす必要があります。
本記事では、今回の発表が実際に何を意味するのか、そしてサウジアラビアが中国以外の重要鉱物供給源となる可能性について解説します。
ジャバル・サイードは、サウジアラビア西部のジェッダから北東約350キロメートルに位置するマディーナ地方にあります。
すでに地下銅鉱山として操業しており、今回新たに発表されたのは、同じ鉱床、あるいは採掘・処理工程に関連する鉱石にレアアースとウランが含まれているというものです。
アブドゥルアジーズ王子によると、フランスの原子力企業Orano(オラノ)との協力によって、採掘・処理に伴うウラン回収が経済的に成立する可能性が示されています。
サウジアラビアは、採掘から処理、分離、レアアース酸化物の精製、さらに関連するウランをイエローケーキにするまでの一貫したサプライチェーンの構築を目指しています。
これは、経済多角化政策「ビジョン2030」を重要鉱物分野へ広げる取り組みといえます。ただし、現時点ではあくまで計画であり、実際に必要な処理・精製施設がすべて整っているわけではありません。
戦略国際問題研究所(CSIS)がサウジアラビア政府やMa’adenのデータを基にまとめた分析では、推定される金属量について別の数字も示されています。
ジスプロシウムやテルビウムなどの重希土類元素が約55万2,000トン、ネオジムやプラセオジムなどの軽希土類元素が約35万5,000トン、ウランが約3万1,000トンとされています。
ただし、これらはカナダの鉱業情報開示基準であるNI 43-101に準拠した埋蔵量ではありません。また、金融機関が融資判断に利用できるような実現可能性調査に基づく数字でもありません。
基準に準拠した資源量が公表されるまでは、あくまで暫定的な推定値として見る必要があります。
レアアースには複数の元素があり、その重要性や用途も異なります。
ネオジムやプラセオジムなどの軽希土類元素は、電動モーターや風力タービンなどに使用される高性能磁石の重要な原料です。
一方、ジスプロシウムやテルビウムなどの重希土類元素は、より少量しか使用されませんが、磁石の耐熱性を高める重要な役割を果たします。
特に問題となっているのが供給源です。
中国は現在も世界のレアアース酸化物の分離・精製で大きなシェアを占めています。そのため、中国以外の国でレアアース鉱床が発見されても、分離・精製能力がなければ、中国への依存を大きく減らすことはできません。
ジャバル・サイードに重希土類元素が高濃度で存在するという発表が今後の調査でも確認されれば、米国、日本、欧州などにとって重要な新規供給源となる可能性があります。
しかし、「重希土類元素が存在する」というだけでは十分ではありません。実際に経済性のある品位で採掘し、分離・精製して市場へ供給できるかどうかが重要です。
Ma’adenは2025年5月、米国上場のMP Materialsとレアアースの処理・分離について協力を進めました。また、2026年1月にはサウジアラビアの企業グループとCritical Metals Corp.が、15億米ドル規模の処理施設について予備協定を締結しています。
こうした取り組みは、単純な鉱石量以上に重要です。
レアアースは、地中に存在するだけでは供給になりません。実際に分離・精製された酸化物が市場へ出荷されて初めて、サプライチェーンの一部となります。
同じ鉱石にレアアースとウランが存在することは、地質学的には珍しいことではありません。しかし、サウジアラビアという国を考えれば、ウランには異なる政治的・戦略的な意味があります。
サウジアラビアは2026年7月に米国と民生用原子力協力の枠組み協定を締結し、国内でのウラン濃縮についても言及してきました。
アブドゥルアジーズ王子が今回の発表をIAEA総会で行ったことにも意味があります。
ただし、銅やレアアースの採掘・処理工程から副産物として回収されるウランは、カナダのアサバスカ盆地にある専用のウラン鉱山から生産されるウランとは性質が異なります。
鉱石品位や回収率に加え、IAEAによる保障措置なども、サウジアラビア産ウランが実際の商品として市場へ供給されるかどうかを左右します。
そのため、今回の発表を理由にCameco(カメコ)、NexGen Energy(ネクスジェン・エナジー)、Denison Mines(デニソン・マインズ)などのカナダのウラン関連株の評価が直ちに変わるわけではありません。
こうした企業の株価は、長期契約、鉱山の許認可、ウラン価格などの影響を受けます。
仮にサウジアラビア産ウランが将来、世界市場へ供給されるとしても、その影響が本格化するのは2030年代以降になる可能性があります。
ジャバル・サイードが世界の重要鉱物供給に影響を与えるためには、大きく3つの条件を満たす必要があります。
1つ目は、国際的な基準に基づく資源量・埋蔵量の確認です。
約1億1,000万トンという鉱石量だけでは、プロジェクトの経済性を判断できません。
重要なのは、鉱石の品位、実際に回収できる割合、そして採掘・処理コストを考慮して利益を出せるかどうかです。
2つ目は、分離・精製能力です。
レアアース鉱石を採掘しても、分離・精製できなければ、単に原材料を輸出するだけになります。
中国がレアアース産業で強い競争力を持つ大きな理由の一つが、この中間工程です。
サウジアラビアはレアアースの処理・精製工程を国内に構築する方針を示していますが、その実現には処理設備だけでなく、試薬、廃棄物処理、熟練した人材なども必要になります。
3つ目は、長期的に安定した顧客との契約です。
重要鉱物プロジェクトへの投資は、政府の発表だけで成立するものではありません。
政治環境が変化しても継続できる長期的なオフテイク契約などを確保し、安定した需要を確立する必要があります。
これら3つの条件が満たされれば、ジャバル・サイードは中国以外の重要なレアアース供給拠点となる可能性があります。
ただし、一つの鉱床だけで中国が築いてきたレアアースの加工・精製能力を覆すことは困難です。
ジャバル・サイードが成功した場合でも、その現実的な役割は、世界の中国依存を完全に解消することではなく、中国以外の供給源を増やし、依存度を少しずつ低下させることになるでしょう。
サウジアラビア政府は、国内の鉱物資源の総価値を約2兆5,000億米ドルと推定しています。また、鉱業によるGDPへの貢献額を現在の約170億米ドルから2030年までに750億米ドルへ拡大することを目指しています。
ただし、これらは国家としての目標であり、ジャバル・サイードから実際に得られる収益を示すものではありません。
レアアース関連企業、特にカナダのレアアース企業の多くは依然として規模が小さく、鉱山開発の許認可取得などに長い時間を必要としています。
今回のサウジアラビアの発表だけで、こうした企業の価値が単純に上昇したり下落したりするわけではありません。
ただし、中国以外のレアアース供給網を構築しようとする政策が強まれば、欧米のレアアース分離・精製企業が資金を調達する環境に影響を与える可能性があります。
投資家がカナダのレアアース関連株やウラン関連株を調査する場合には、資源量だけでなく、オフテイク契約、処理に必要な試薬、競合する政府支援プロジェクトが先に生産を開始する可能性なども考慮する必要があります。
また、BarrickがMa’adenと運営する既存の銅鉱山は、今回の発表においてカナダ企業と直接関係する数少ない既存事業です。
ただし、現在の銅鉱山から得られるキャッシュフローと、将来のレアアース処理施設の経済性は分けて考える必要があります。
今回の発表では、約1億1,000万トンという大きな数字が注目されています。
しかし、鉱山プロジェクトの価値を判断するために必要な情報の多くは、まだ明らかになっていません。
現時点では、採算性を判断するためのカットオフ品位、実際の回収率、必要となる設備投資額などが公表されていません。
さらに、水の確保、放射性物質を含む尾鉱の処理、ウラン回収に伴うIAEAの査察、既存の銅鉱山を操業しながら新しい処理工程を導入する難しさなどもあります。
米国との協力についても、ウラン濃縮をめぐる交渉次第では進展が遅れる可能性があります。
また、サウジアラビアの処理施設が稼働するまでに、中国側の供給増加などによってレアアース酸化物の価格が下落する可能性もあります。
鉱石の存在を発表することと、そこから経済的にレアアース酸化物やウランを生産して市場へ供給することの間には、大きな隔たりがあります。
サウジアラビアが発表した約1億1,000万トンという数字は、レアアースやウランそのものの埋蔵量ではなく、それらを含む鉱石の量です。
ジャバル・サイードに重希土類元素やウランが経済的に回収できる濃度で存在することが確認され、さらに分離・精製施設や長期的な販売先まで確保できれば、中国以外の重要鉱物供給源として存在感を高める可能性があります。
一方、現時点では国際基準に基づく資源量・埋蔵量や回収率、必要な設備投資額など、プロジェクトの経済性を判断するための重要な情報が不足しています。
そのため、今回の発表だけで「サウジアラビアが世界のレアアースやウランの供給構造を変える」と判断するのは時期尚早です。
重要なのは1億1,000万トンという数字そのものではなく、その鉱石からどれだけのレアアースやウランを経済的に回収し、分離・精製して実際に市場へ供給できるのかです。
Ben McGregor氏は、Canadian Mining Reportで毎週更新される「Weekly Roundup」を執筆し、金属・鉱業セクターを分析しています。金、銅、ウランなど幅広い鉱種を取り上げ、市場動向やTSXV上場のジュニア鉱山会社について、データに基づいた分析を提供しています。