※本記事は、Canadian Mining Report にて Ben McGregor 氏が執筆した内容を翻訳・再構成したものです。
米国では、レアアースやグラファイト、リチウム、ホウ素などの重要鉱物を国内で加工するため、米陸軍基地を活用する新たな取り組みが進められています。
重要鉱物のサプライチェーンを強化し、中国など海外への依存度を引き下げることが狙いです。この動きは米国だけでなく、重要鉱物を豊富に持つカナダの鉱山会社や開発企業にとっても、新たな事業機会につながる可能性があります。
トランプ政権は民間企業と連携し、米軍基地内に重要鉱物の商業加工施設を建設する計画を進めています。陸軍基地内にこうした施設が設置されるのは初めての試みです。
目的は、防衛だけでなく、電気自動車(EV)や半導体、再生可能エネルギー、先端製造業などに欠かせない重要鉱物の国内加工能力を拡大することです。
報道によると、米陸軍はREalloys、Titan Mining、EnergyX、オーストラリアのioneerと予備的な合意に達しました。
企業側が基地内の施設整備に必要な資金を負担する代わりに、その施設を操業する権利を得る仕組みです。従来のような政府補助金に依存せず、すでに重工業用地として利用できる軍用地を活用する点に特徴があります。
今回の計画では、それぞれ異なる重要鉱物を対象とした加工施設の建設が検討されています。
REalloysは、ユタ州のトゥーエル陸軍補給廠にレアアースの分離施設を建設する予定です。
Titan Miningは、アーカンソー州のパインブラフ兵器廠、またはアラバマ州のアニストン陸軍補給廠にグラファイト精製施設を建設する計画です。
さらに、EnergyXはリチウム処理施設、オーストラリアのioneerはホウ素加工施設の建設を計画しています。
建設は早ければ2027年に始まり、2028年の生産開始を目指しています。米国防総省は、軍事用途に必要な戦略物資を安定して確保すると同時に、米国内の重要鉱物加工能力を拡大する手段として今回の取り組みを位置付けています。
米国が重要鉱物の国内加工を急ぐ背景には、世界のサプライチェーンをめぐる地政学的なリスクがあります。
特にレアアースでは、中国が世界の加工・精製能力の大部分を握っています。地政学的な対立が深まれば、輸出規制などによって米国への供給が滞る可能性があります。
そのため、米国政府は融資や投資、民間企業との戦略的パートナーシップなどを通じて、重要鉱物の生産・加工能力を国内に構築する政策を進めています。
今回の軍事基地を利用した加工施設も、その一環です。既存の軍事インフラを活用することで、新たな産業用地を一から整備するよりも迅速にサプライチェーンを構築できる可能性があります。
重要鉱物は、現代の産業や防衛システムを支えるさまざまな製品に使用されています。
たとえば、レアアースはEVのモーターや風力タービン、防衛装備などに使われる永久磁石に欠かせません。グラファイトはリチウムイオン電池の主要な負極材料であり、リチウムも蓄電池などのエネルギー貯蔵に必要です。
ホウ素は特殊ガラスやセラミックなどに使用されるほか、一部の先端技術にも利用されています。
こうした鉱物を特定の国からの輸入に依存すると、地政学的な問題が発生した際に供給停止や価格上昇、輸出規制などの影響を受ける可能性があります。そのため、安全で多様なサプライチェーンの構築は、経済競争力だけでなく国家安全保障の問題にもなっています。
米国の重要鉱物政策は、カナダの鉱山会社や開発企業、投資家にとっても重要な意味を持ちます。
カナダはすでに米国にとって重要鉱物の主要な供給国の一つであり、両国のサプライチェーンは深く結びついています。
さらに、西側諸国が中国への依存度を引き下げようとするなか、豊富な鉱物資源と鉱業の専門知識を持つカナダは、米国にとって重要な上流パートナーとなる可能性があります。
カナダには、リチウムやグラファイト、ニッケル、コバルト、銅、レアアースなど、さまざまな重要鉱物資源が存在します。
特にケベック州やオンタリオ州では、多数の鉱山開発プロジェクトや探鉱活動が進められています。
また、カナダの鉱山会社は環境に配慮した鉱山開発や先住民とのパートナーシップなどに関する経験を持っています。サプライチェーンにおいてESGや責任ある資源開発が重視されるなか、こうした実績もカナダの強みになります。
さらに、カナダと米国の間には重要鉱物資源に関する既存の協力体制があります。こうした枠組みは、探鉱や鉱山開発、加工技術、オフテイク契約などで両国の協力をさらに深める基盤となります。
米国が国内の加工能力を拡大すれば、それらの施設に供給する安全な原料も必要になります。
そのため、リチウムやグラファイト、レアアースなどを開発するカナダ企業に対して、米国企業からオフテイク契約や合弁事業、投資などの提案が増える可能性があります。
カナダ政府も天然資源省のプログラムなどを通じて重要鉱物への投資を進めているほか、同盟国との連携や国内での高付加価値加工を支援しています。
カナダ国内でリチウムの転換処理やグラファイトの精製、レアアースのリサイクル・分離などを進めるプロジェクトも、中国に依存しないサプライチェーンへの需要拡大から恩恵を受ける可能性があります。
米国が重要鉱物のサプライチェーン強化を進めることで、カナダ企業には主に4つのチャンスが生まれる可能性があります。
なかでも、グラファイトやリチウム、レアアースの探査・開発プロジェクトを持つカナダ企業は、有利な立場にあります。ESGへの取り組みや地域社会からの支持があり、生産開始までの道筋が明確な企業ほど、米国企業や投資家から注目される可能性が高いでしょう。
一方、米国が重要鉱物の加工能力を国内に構築することは、カナダにとって機会だけをもたらすわけではありません。
米国内で加工できる鉱物が増えれば、カナダなどから加工済み材料を輸入する必要性が低下する可能性があります。
ただし、自動車や防衛、電子機器などの産業では、カナダと米国のサプライチェーンがすでに深く統合されています。そのため、すべてを米国内だけで完結させるよりも、北米全体で安全なサプライチェーンを構築する可能性が高いと考えられます。
カナダにとって重要なのは、鉱石や原料を輸出するだけでなく、国内の中流・下流工程を強化することです。加工や精製、製造向け材料の生産まで国内で行うことができれば、重要鉱物から得られる経済的な付加価値を高められます。
一方、カナダの鉱山プロジェクトでは、許認可に必要な期間やインフラ整備、資金調達などが引き続き課題です。こうした問題への対応には、カナダと米国の政策面での連携も重要になります。
米陸軍基地に重要鉱物の加工施設を設置する計画は、既存の軍事インフラと民間資金を活用して、サプライチェーンを迅速に強化しようとする新しい取り組みです。
民間企業に投資と施設運営を担わせることで、商業的な利益と国家安全保障の両方を実現することを目指しています。
この動きは、カナダが保有する重要鉱物資源の戦略的な価値をさらに高める可能性があります。豊富な鉱物資源を持ち、責任ある鉱山開発を行う米国の同盟国であることは、安全なサプライチェーンが重視される時代においてカナダの競争力になります。
今後は、カナダでの鉱物生産と、米国をはじめとする同盟国での加工・製造が、これまで以上に結びついていく可能性があります。
そのなかでも、開発スケジュールやコストを適切に管理し、米国企業などとのパートナーシップを構築できるカナダ企業は、重要鉱物市場の拡大から恩恵を受けやすいでしょう。
中国など特定の国に集中したサプライチェーンのリスクを軽減する動きが続けば、カナダの重要鉱物プロジェクトは、北米を中心としたより強固なサプライチェーンを構築するうえで重要な役割を担うと考えられます。
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本記事は2026年6月下旬時点で公表されている情報に基づいています。投資や事業に関する意思決定を行う際には、ご自身で調査を行い、必要に応じて専門家へご相談ください。
Ben McGregor氏は、CanadianMiningReport.comにおいて「Weekly Roundup」を執筆しており、金属・鉱業セクターに関する分析を行っています。
金、銅、ウランなど幅広い鉱種を扱い、データに基づいた視点から市場動向や投資機会を分析しています。特にTSXV(トロント・ベンチャー取引所)に上場するジュニア鉱山企業を中心に、変化の激しい鉱業市場に関する情報を発信しています。