銅は「新たな石油」になるのか?AI・EV時代が生み出す深刻な銅不足問題を解説

September 5, 2025

金融世界大手の米ゴールドマン・サックスは2022年5月、今後のカーボンニュートラル社会に向けた電化や再生可能エネルギー発電により、「銅が新たな石油になる」とするレポートを発表しました。

しかし、この「新たな石油」は深刻な供給不足に直面しています。スマートフォンから電気自動車、データセンターまで、現代生活を支えるあらゆるテクノロジーに銅は欠かせませんが、AI・再生可能エネルギー関連を中心とした特定分野の銅需要は2030年までに約600%増加すると予測(米・ゴールドマンサックス)される一方で、将来銅が不足する事態が懸念されています。

そこで本記事では、AI・EV時代に突入する中で急激に拡大する銅需要の背景から、深刻化する供給制約、そして日本が直面する調達リスクまで、銅不足問題の全体像を解説します。

近年高騰している銅価格

まず、銅不足が注目される背景として価格の動きを見てみましょう。

出典:世界経済のネタ帳 銅価格の推移


上記のチャートが示すように、銅価格は2020年以降急激に上昇し、2021年に一度高値を記録した後、2022年に調整局面を迎えました。しかし2023年後半から再び上昇トレンドに転じ、2024年には過去最高値を更新しています。2025年5月時点では1トンあたり1万ドル近辺まで上昇しており、今後も高値圏で推移する可能性が高いとされています。

なぜ銅需要は急激に増加しているのか?

銅需要の急激な拡大は、主にAI技術の普及、電気自動車の普及、再生可能エネルギーインフラの整備という3つの要因が重なって起きています。

AIデータセンターが引き起こす爆発的需要

AI技術の普及にともない、世界各地でデータセンターの建設が急増しています。こうした施設では、サーバー内部の配線や電源コネクタ、冷却システム、外部からの電力供給ケーブルなど、さまざまな場面で銅が欠かせない役割を果たしています。

銅は銀に次いで電気を通しやすい金属であり、大量の電力を扱うデータセンターには不可欠な素材です。

こうした需要の高まりを背景に、世界最大手の銅鉱山会社BHPは、データセンター向けの銅需要が現在の年間約50万トンから、2050年には約300万トンに拡大すると予測しています。

EV革命が生み出す銅需要の構造変化

電気自動車の普及も銅需要を大幅に押し上げています。自動車1台あたりの銅使用量を比較すると、その差は歴然としています。

出典:JOGMEC

電気自動車はガソリン車の約3.6倍もの銅を使用しており、世界中でEVシフトが進むにつれて銅需要は急激に増加していきます。

再生可能エネルギーインフラの銅集約性

風力発電や太陽光発電といった再生可能エネルギーの設備は、従来の火力発電所に比べて多くの銅を必要とします。たとえば洋上風力発電では、発電機のモーターや変圧器、送電線などに銅が使われており、1メガワットあたり約11.5トンもの銅が必要とされています。

国際エネルギー機関(IEA)によると、2050年までに太陽光発電の設備容量は現在の約20倍、風力発電は約11倍に増える見通しです。これに伴い、銅の需要も今後大幅に拡大すると予想されています。

銅がこれほど重要視されるのは、その優れた電気伝導性に加え、加工のしやすさ、高い熱伝導性など、ほかの金属では代わりにならない特性を持っているからです。こうした特性のおかげで、再生可能エネルギー分野でも銅の役割はますます大きくなるでしょう。

銅の供給を増やすのも簡単ではない理由

銅需要の拡大にともない、供給側は生産量を増やしたいところではありますが、容易なことではありません。現在は新規鉱山開発の長期化と環境問題といった課題に直面しているのです。

新規鉱山開発の長期化

銅の供給を増やすときの問題点として、新しい鉱山を開発するには長い時間がかかることが挙げられます。

ゴールドマンサックスのレポートによれば、既存の鉱山を拡張する場合でも2〜3年は必要であり、未開発地で新たにゼロから鉱山を立ち上げる場合では、通常8年間、場合によっては10〜20年近くかかるとされています。

つまり、今から準備を始めても2030年に迫る需要増には間に合わない可能性が高いのです。しかし、2010年代半ばに銅価格が暴落した際、鉱業セクターは大きな打撃を受けたため、新規投資には今なお慎重な状況が続いています。

また現在の銅価格(約9000ドル/トン)は、長期的な供給不足リスクを防ぐ水準としてはまだ不十分だという指摘もあることから、今後も値上がりしていく可能性が高いと予想されます。

環境問題とESG投資が生む新たな制約

世界の銅生産量を見ると、上位はチリ(530万トン)、コンゴ民主共和国(330万トン)、ペルー(260万トン)となっていますが、これらの国でも優良鉱山の減少が問題となっています。

出典:JOGMEC 2023年の世界の銅生産量

鉱石品位の低下により、同じ量の銅を生産するためにより多くの鉱石を処理する必要があり、コストと環境負荷の増大を招いています。また、鉱石には硫黄、ヒ素、カドミウムなどの有害成分が含まれることが多く、環境破壊や地域住民との対立が鉱山開発を困難にしています。

日本でも栃木県の足尾銅山で鉱毒被害が発生した歴史があり、近年は南米ペルーでも環境問題に端を発した争議が頻発しています。さらに現在では、グローバルなESG(環境・社会・ガバナンス)投資の拡大により、鉱山開発プロジェクトに対する環境・社会面での要求が一段と厳しくなっており、新規開発への制約要因となっています。

日本が直面する銅調達リスク

銅の供給制約は、日本のような資源輸入国にとって深刻な問題です。日本は1994年に秋田と青森の鉱山が閉山して以来、銅のほぼすべてを海外からの輸入に頼っており、そのうち6割以上はチリとペルーの2か国に偏っています。こうした依存構造が、銅調達リスクを高めているのが現状です。

国内の主要な銅関連企業も、この状況に対処するため、海外鉱山への出資を進めてきました。住友金属鉱山、JX金属、三菱マテリアルといった大手非鉄金属メーカーは、南米などで銅権益を確保しています。しかし、既存の権益は徐々に枯渇が進み、鉱石の品位低下も進行しています。新たな案件の獲得競争も激しさを増しています。

また、国内の製錬業界は電力コストの上昇という別の課題にも直面しており、国際競争力の維持が年々難しくなっています。

こうしたなか、将来の銅不足に備えたリサイクル強化も重要なテーマとなっています。日本の非鉄製錬所は高品質な金属地金の供給やリサイクル技術で世界をリードしていますが、廃棄された銅製品や製造工程で発生する銅くずの再利用だけでは、拡大する需要を賄うのは難しいのが現状です。二次原料の安定調達や再資源化コストの高さも引き続き課題として残っています。

こうした状況を受けて、日本政府も銅の安定調達に向けた政策強化を進めています。供給源の多角化やリサイクル支援など、多面的な対策が今後ますます重要になっていくでしょう。

それでも、世界的な銅不足という大きな潮流に抗うのは容易ではありません。今後も官民一体となった取り組みが求められています。

まとめ

AI技術の進化、電気自動車の普及、再生可能エネルギーの拡大といった背景から、銅の必要性が増加しています。

一方で、新たな鉱山開発には長い時間がかかり、環境規制や資源ナショナリズムの影響もあり、供給の先行きは決して楽観できる状況ではありません。

こうしたなか、日本でも政府や企業が資源開発やリサイクル強化などに取り組んでいますが、引き続き海外との協力や民間の努力が必要となってくるでしょう。

今後も銅市場の動向を注視しつつ、日本としても安定した供給をどう確保していくか、地に足の着いた取り組みが求められそうです。

【出典】

Goldman Sachs Commodities Research “Copper is the new oil”
chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://sustainablejapan.jp/wp-content/uploads/2021/05/Green-Metals-Copper-is-the-new-oil.pdf

BHP BHP-Insights “Why AI tools and data centres are driving copper demand”
https://www.bhp.com/news/bhp-insights/2025/01/why-ai-tools-and-data-centres-are-driving-copper-demand

資源エネルギー庁 2050年カーボンニュートラル実現に向けた鉱物資源政策
chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shigen_nenryo/kogyo/pdf/008_03_00.pdf

世界経済のネタ帳 銅価格の推移
https://ecodb.net/commodity/copper.html

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