EV電池材料としてのニッケル資源の確保は、すでに企業レベルの取り組みを超え、各国の「国家戦略」として位置づけられる段階に入っています。そうした中、日本政府および日本企業は、カナダのニッケル企業FPXニッケル社(以下FPX社)と協力関係を構築しました。
本記事では、「FPX社とはどのような企業なのか」「なぜ数あるニッケル企業の中から日本はFPX社を選んだのか」という点に焦点を当て、日本側の視点からFPX社の立ち位置を整理していきます。
2023年9月、日本の政府系機関JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)は、カナダの探鉱企業FPX社、およびトヨタとパナソニックの合弁会社であるPPES(プライムプラネットエナジー&ソリューションズ)の3者で、EV電池向けニッケルサプライチェーン構築に関する覚書を締結しました。
この覚書は、FPX社が開発を進めるバプティスト鉱床から生産が見込まれるニッケルを、EV用リチウムイオン電池の正極材として活用することを念頭に、技術情報や専門知見を共有し、共同検討を進めることを目的としています。採掘から精製、材料化に至る工程を、3者が連携して設計していく枠組みです。
またJOGMECとFPX社は「グローバル・ジェネレーティブ探鉱アライアンス」を締結し、世界規模でのアワルアイト型ニッケル鉱床探査を共同で推進する体制を構築しました。探査費用はJOGMECが負担し、FPXが現地運営を担う形となっています。
さらに2024年には、日本最大級の鉱山会社である住友金属鉱山が、FPXに対して1,440万ドルの戦略的資本投資を実施しました。この投資により、将来的に年間最大6万トンのニッケル製品に関するオフテイク交渉権を取得しています。

では、日本政府と企業が提携を結んだFPX社とは、どのような会社なのでしょうか。
FPXニッケル社は、カナダ・ブリティッシュコロンビア州バンクーバーに本社を置く鉱山会社です。同州中央部、バンクーバーの北方約1,000km地点に位置するデカール地域で、バプティスト鉱床の開発を進めています。
2023年9月に公表された予備的採算性調査によれば、同プロジェクトは年産約5.9万トンのニッケル生産が見込まれ、鉱山寿命は約29年とされています。
では、なぜ日本政府や企業がニッケル資源の安定的な調達を目的としてFPX社が選ばれたのかというと、同社が保有する独特のニッケル鉱物である「アワルアイト」にあります。
FPX社の最大の特徴は、「アワルアイト」と呼ばれる希少なニッケル鉱物を保有していることです。アワルアイトは1885年にニュージーランドで発見された金属ニッケル・鉄鉱物で、世界各地で確認されていますが、商業規模での開発はバプティスト鉱床が初とされています。
アワルアイトが低炭素ニッケルを実現できる理由は、大きく2つあります。
1つめは、強い磁気特性があることです。アワルアイトは磁性が強く、磁力を用いた選鉱が可能です。そのため、化学試薬を使用せずにニッケルを回収できます。通常のニッケル鉱山では、ニッケルの回収工程で多量の化学薬品が必要となり、環境負荷やコスト増加の要因となります。
2つめとして、硫黄含有量が極めて少ない点が挙げられます。従来型のニッケル採掘では、硫化鉱やラテライト鉱から硫黄を除去する製錬工程が不可欠です。この工程はエネルギー集約的で、CO₂排出と強く結びついています。しかしアワルアイトは硫黄をほとんど含まないため、高エネルギー消費型の製錬工程を省略できる可能性があります。

さらにバプティスト鉱床は、ブリティッシュコロンビア州の水力発電網に接続可能な立地にあります。同州の電力は98%以上が再生可能エネルギー由来であり、採鉱・加工プロセス全体の炭素排出量を大幅に抑えられます。
つまり、日本政府・日本企業がFPX社に投資・協力する理由は、以下の条件が全て揃っているからであると言えます。
日本はニッケル鉱石の多くを輸入に頼っており、インドネシアやフィリピンといった特定の国への依存が高い傾向にありました。
しかし、EV市場の拡大や地政学リスクの高まりにより、単なる供給では十分ではありません。
これから求められるのは、「環境負荷が低く、高品質でありながら、長期的に安定供給できるニッケル」です。
では、日本政府と企業による戦略的な提携を、当事者であるFPX社のCEOはどのように見ているのでしょうか。FPXニッケル社CEO マーティン・トゥレンヌ氏へのインタビューを通じて、日本政府・日本企業がFPXを選んだ理由、EV市場とニッケル需要の長期的な見通し、そしてFPX社が描く長期ビジョンについて、本人の言葉で詳しく掘り下げていきます。
【出典】
JETRO 日本とカナダのバッテリー関連企業などが技術協力で2つの合意
https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/09/bbf0f448ebc49dfd.html
JOGMEC カナダでのニッケル共同探鉱契約を締結 カーボンニュートラル社会への実現へ向けて、電池材料向けニッケルの供給を目指す
FPX Nickel Low-Carbon Nickel. Made in Canada.
https://fpxnickel.com/wp-content/uploads/FPX-Presentation.pdf
FPX Nickel What is Awaruite?
https://fpxnickel.com/projects-overview/what-is-awaruite/
【ロゴ出典】
FPXニッケル公式サイト
【免責事項】
本書は情報提供のみを目的としており、事業計画や投資における専門家による財務・法務アドバイスの代替として使用すべきではありません。
本書に含まれる予測が特定の結果や成果につながることを保証するものではなく、記事の内容に基づいて全体的または部分的に行われた投資判断やその他の行動について、当メディアは一切の責任を負いません。