日本の金準備はなぜ増えないのか?米国債との関係と今後の展望を解説

September 1, 2025

金(ゴールド)は、世界経済の不確実性が高まる中で再び注目を集めています。2024年8月に金価格は1トロイオンス当たり2500ドルを超え、史上最高値を更新しました。

こうした中、世界各国の中央銀行は金準備を増やす傾向にありますが、日本はその動きに追随していません。なぜ日本は他の国々と異なる金準備政策を取っているのでしょうか。本記事では、日本の金市場と米国との特殊な関係について解説します。

日本の金準備と米国債保有の特徴

日本の金準備政策には、他の先進国とは大きく異なる特徴があります。その実態と背景を詳しく見ていきましょう。

世界的に見て特異な日本の金準備

2024年12月現在、日本銀行の金保有量は845.97トンで、これは2021年からほとんど変化していません。日本の外貨準備に占める金の割合は約5.8%に過ぎず、イタリア、フランス、ドイツなどが70%を超えていることと比較すると、先進国の中でも極めて低い水準にあります。

国別の金の保有量および外貨準備資産に占める金準備比率

順位 国名・機関名 重量(トン) 外貨準備資産に占める金準備比率(%)
1 米国 8133.5 74.97%
2 ドイツ 3351.5 74.39%
3 IMF 2814.0 不明
4 イタリア 2451.8 70.79%
5 フランス 2437.0 72.27%
6 ロシア 2335.9 32.2%
7 中国 2279.6 5.5%
8 スイス 1039.9 9.59%
9 インド 876.2 11.35%
10 日本 845.0 5.77%

出典:WORLD GOLD COUNCIL

一方で、日本は米国債の最大の保有国です。米国財務省のデータによれば、2023年5月時点で、日本は1兆968億ドル(約150兆円)もの米国債を保有しています。これは中国を超える世界最大の保有額です。

では、なぜ日本はこれほど多くの米国債を持ち、金準備を増やさないのでしょうか。

日米安全保障と金準備政策の関係

日本が金準備を積極的に増やせない理由は、安全保障政策と経済政策の密接な関連性にあります。日米安全保障条約のもと、日本は米国の軍事的庇護を受けており、その見返りとして、日本は米国債の大量購入を通じて米国経済を支えるという構図が成立しています。

この構図は「日本は国の安全保障を米国に頼り切っているから、その言いなりにならざるを得ない」という表現で分析されることもあります。つまり、米国債の購入は単なる経済政策ではなく、安全保障政策の一環としての側面も持っているのです。

この日本と米国債の関係が如実に表れたのが、1997年の橋本龍太郎首相による発言です。当時訪米していた橋本首相は「日本は、米国債を売り、金を買いたい衝動に駆られることがあるかもしれない」と述べました。この発言は米国市場に衝撃を与え、ダウ平均は大きく下落しました。

橋本首相はさらに、多くの国が米国債を保有し続けることで米国経済が支えられていると指摘し、「我々が財務省証券を売って金に切り替える誘惑に負けないよう、米国からも為替安定への協力が必要」と述べたのです。この発言は、日本が米国債を大量に保有することの政治的意味を如実に表しています。

金準備の歴史的推移

日本の金準備の歴史を振り返ると、1971年のニクソンショック後に金保有量を750トンまで増やしたものの、1980年代から2010年代まではほぼ765トンのまま据え置かれていました。近年わずかに増加したとはいえ、世界的な金買い増しの流れからは大きく外れています。

この背景には、日米の特殊な関係があります。米国との強固な関係を維持するため、日本は米国債の大量保有を通じて米国経済を支え続けてきたのです。

中国との対比

対照的なのが中国の動きです。米国との貿易摩擦や技術覇権争いが続く中国は、ドル資産への依存リスクを減らし、国際情勢の不安定さに強い金を積極的に購入しています。

2024年1月〜3月だけでも、中国は計533億ドル(約8兆2000億円)という記録的な額の米国債を売却しました。その代わりに、2023年に中国人民銀行は224.9トンの金を購入しており、これは1977年以降で単年としては最大の購入量です。

中国国内では不動産市場の低迷に加え、暗号資産も禁止されているため、投資先としての金の需要が特に高まっています。中国の富裕層にとって、金は数少ない安全な資産保全手段となっています。

他の新興国も同様の動きを見せており、米国との関係性によって金準備政策が大きく異なることが分かります。新興国の視点からは、米国の長期金利の動向よりも、ドル資産保有に伴う政治的リスクの方が重要な考慮事項となっているのです。

日銀保有の金が海外にある理由

日本銀行の金保有に関する興味深い事実として、その多くが海外に保管されている点があります。

国際的な金の保管体制

日本銀行が保有する金は全て日本国内に保管しているわけではなく、日銀本店の地下金庫のほか、ロンドンのバンク・オブ・イングランドと、米国のニューヨーク連邦準備銀行の金庫にも分散して保管されています。

特にニューヨーク連邦準備銀行は、ドルの発行を行う国の銀行であり、その地下には膨大な量の金が貯蔵されています。その量は世界の中央銀行が保有する金のおよそ5分の1に相当する6200トンに達します。注目すべきは、この金の大部分は米国自身のものではなく、世界各国から預かっているものであり、日本もその一つなのです。

海外保管の戦略的意義

日本が自国の金を海外に保管している理由は、安全保障上の考慮にあります。金を自国の中央銀行のみで保管することには、国際情勢の変化によって大きなリスクが伴うことがあります。

例えば、もし他国に攻められ、占領されるような事態になれば、手持ちの金を奪われる可能性があります。また国際的な金取引を円滑に行うためには、主要な金融センターに金を配置しておくことが戦略的に有利です。

この点においても、日本の金準備政策は米国との関係性を踏まえた上での戦略的な選択であることが分かります。

安全保障環境の変化と今後の展望

しかし近年、日米の関係にも変化の兆しが見られます。トランプ大統領は3月6日の会見で「米国は日本を守らなければならないが、日本はわれわれを守る必要がない」として、日米安全保障条約の内容が不公平だという主張をしました。

さらに、ドルに対する国際的な信頼は、トランプ前政権以降徐々に弱まっている傾向があります。トランプ氏が再び大統領に就任した場合、世界的な貿易環境に大きな変化をもたらすかもしれません。特に関税政策の強化は、金市場にも影響を与えるでしょう。専門家の間では、トランプ氏が金にも関税をかける可能性を懸念する声もあり、これが金価格の上昇要因となっているという分析もあります。

もし米国が日本を守る姿勢を変えた場合、いくつかの重大な変化が予想されます。

  • 日本の軍事費が増加し、財政負担が増加する
  • 地政学リスクが高まり、中国・ロシア・北朝鮮の影響力が増す
  • 円の信用に影響を与え、日本の金融政策の選択肢が広がる可能性がある

このような安全保障環境の変化は、日本の金準備政策にも大きな影響を与える可能性があるのです。

国際情勢の変化と日本の選択肢

金価格の高騰や世界的な中央銀行による金買い増しの動きは、国際通貨体制の変化を示唆しています。特にBRICS諸国を中心とした「脱ドル化」の動きは、今後の国際金融システムに大きな影響を与える可能性があります。

この背景には、米国の累積債務の増加があります。米国連邦政府の借金は増え続けており、これが将来的に米国債のダウングレードにつながる可能性も指摘されています。経済成長に伴い通貨の量が増えると、その価値は希薄化していく傾向にあります。対照的に金の供給は限られているため、その価値は相対的に維持されやすいのです。

こうした中で、日本は今後も米国債の大量保有と最小限の金準備という現在の政策を続けるのか、それとも他国のように金準備を増やす方向に転換するのか、重要な岐路に立っています。

日本経済と投資家への影響

日本の金準備政策は、日本経済全体だけでなく、個人投資家の選択にも影響を与えます。

特に注目すべきは、金と日本国債の対比です。過去10年間、ゼロ金利政策の下で日本国債を保有する意義は限られていました。一方、米国債は10年で5%程度の利回りを提供していましたが、金の価格上昇率はこれを上回る局面も見られました。

日米関係の変化や国際通貨体制の変動は、円の価値や日本の金融市場にも大きな影響を与える可能性があります。投資家は、こうした国際情勢の変化を注視しつつ、円建ての金を適切に保有することも検討していいでしょう。

まとめ

日本の金準備政策は、経済的な合理性だけでなく、日米同盟という政治的文脈の中で形成されてきました。世界的に金準備を増やす動きがある中で、日本が異なる道を進んでいる背景には、安全保障と経済が複雑に絡み合った日米関係の特殊性があります。

国際情勢が大きく変化する中で、日本の金準備政策も今後変化する可能性があります。投資家は、こうした動向を注視しながら、資産運用の戦略を考えていくことが重要です。

【出典】

World Gold Council World Reserves By Country
https://www.gold.org/goldhub/data/gold-reserves-by-country

三菱マテリアル NY連銀金庫の金6千トン、NHK番組のテーマに

https://gold.mmc.co.jp/toshima_t/2022/05/3492.html

A World Rubber Organization 
https://www.anrpc.org/news/china%E2%80%99s-central-bank-to-return-to-gold-buying-as-prices-ease%3A-analysts

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