ニッケルの価値は「製錬」と「材料」で決まる?住友金属鉱山の活動から解説

December 23, 2025

EV(電気自動車)や再生可能エネルギー、AI・データセンターの拡大を背景に、ニッケルの重要性が高まっています。しかし、ニッケル市場では「採れたニッケルがそのまま使えるわけではない」という点が見落とされがちです。

EV・電池向け用途では、ニッケルの価値は採掘量ではなく、製錬・材料工程でどこまで品質を高められるかで決まります。本記事では、住友金属鉱山のニッケル事業を例に、ニッケルの価値創出について解説します。

なぜニッケルは「採れたまま」では使えないのか

EV向けリチウムイオン電池に使用されるニッケルは、鉱山から産出された鉱石をそのまま利用できません。電池用途では、ニッケル中の微量不純物が性能や寿命、安全性に直接影響するため、極めて高い品質水準が求められます。

鉄・マグネシウム・カルシウムといった不純物に加え、希土類元素などが含まれることもあります。量としてはごくわずかでも、電池材料として使用する際には性能劣化や品質ばらつきの原因となります。そのため「どこで採れたか」よりも「どの工程を経て、どこまで精製・制御されているか」が重視されます。

つまり、採掘された時点のニッケルは、まだ半製品にすぎません。その価値を左右するのは「純度」と「品質の安定性」であり、完全に除去することよりも、許容範囲内に安定して抑え続けることが重要です。高度な製錬・精製技術と工程管理があってこそ、ニッケルは電池向けの価値を持つようになるのです。

品質を左右するのは「採掘段階」ではなく「製錬工程」

EV時代のニッケルでは、中流工程が最大の差別化要因になります。

中流工程(製錬)が重要なのは、不純物を除去するだけでなく、ニッケルを「どの用途に、どの品質で使えるか」を決定づけるためです。

近年のニッケル需要は、ステンレス用途から、EV・電池向けといった高付加価値用途へと重心が移っています。市場で本当に不足しているのは「ニッケル資源そのもの」ではなく、電池用途に適合したニッケルを安定供給できる製錬能力だと言えます。

ニッケル鉱山を保有していても、製錬工程を外部に依存している場合、原料の受け入れ条件に制約が出たり、用途に応じた品質調整ができなくなったり、供給が滞ったりします。

一方で、自社で製錬工程を持つ企業は、用途別にニッケルを「作り分ける」ことが可能であり、電池メーカーや材料メーカーとの交渉力や供給契約の安定性に直結するのです。

中流工程はニッケルの供給量を増やすのではなく、ニッケルの価値を最大化するための戦略拠点なのです。EV・電池時代において、ニッケルの競争力は採掘段階ではなく、製錬という中流工程で大きく分岐しています。

ニッケル事業を上流から下流まで押さえる住友金属鉱山の強み

住友金属鉱山のニッケル事業の特徴は、資源開発(上流)から製錬(中流)、電池材料(下流)までを自社グループ内で一貫してカバーしている点です。ニッケルの価値は、鉱石の品位や不純物の性質をどのように製錬・精製し、最終的にどの用途へ転換するかによって変わります。

同社は、ニッケル鉱石の確保から、製錬による高純度ニッケル、車載電池向け正極材といった材料分野までを一つの事業連鎖として構築してきました。この一貫体制により、同社は「市場にある原料を調達して加工する」立場ではなく、用途を前提にニッケルそのものを設計・制御できる立場にあります。

電池材料として求められる品質水準や不純物許容量を踏まえたうえで、どの鉱石を使い、どの製錬条件が最適かを逆算することが可能です。これは、上流・中流・下流が分断されている企業では実現が難しいアプローチです。

また、ニッケルは市場規模が小さく、優良資源が地理的に偏在しているため、安定的な原料確保そのものが競争力になります。自社で資源権益を持つことは、供給面の安定だけでなく、中長期的な事業計画を可能にする基盤となるのです。

住友金属鉱山の強みは単なる「垂直統合」ではなく、ニッケルの価値がどこで生まれるのかを理解したうえで、上流から下流までを有機的につないでいる点にあります。この構造があるからこそ、同社は高度な製錬技術や付加価値の高い材料事業を成立させることができています。

ニッケル鉱石からEV電池までの価値創出フロー

ニッケルは、採掘された時点で完成品になる資源ではありません。
EV用電池に使われるまでには、複数の工程を経て段階的に価値が付加されていきます。

この流れの中で、どの工程を自社で担い、どこで付加価値を生み出せるかが、
ニッケル事業の競争力を大きく左右します。

HPAL技術が可能にした低品位ニッケルの活用

ニッケル鉱石には硫化鉱と酸化鉱の2種類があり、問題となっているのが低品位のニッケル酸化鉱です。含有量が低く、不純物も多いため、従来の製錬方法では経済的に利用するのは困難でした。

しかし、高品位鉱石の枯渇が進む中で、低品位鉱石をいかに活用できるかが、ニッケル事業の持続性を左右する重要なテーマになっています。ここで大きな役割を果たしているのが、HPAL(高圧酸浸出)技術です。

HPALは、高温・高圧の硫酸環境下でニッケル酸化鉱を処理し、ニッケルを効率的に回収する技術です。理論的には有効である一方、設備の腐食や操業トラブルが多発し、長らく「実用化が難しい技術」とされてきました。住友金属鉱山は、世界に先駼けてHPAL技術の商業化に成功し、安定操業のノウハウを蓄積していきました。

これにより、これまで経済的価値が低いと見なされていた低品位鉱石を、継続的に利用可能な資源へと転換することが可能になりました。重要なのは、HPALが単に「採算の合わない鉱石を処理できる技術」ではない点です。この技術により、鉱石の品位に左右されにくい原料調達が可能となり、ニッケル供給の選択肢そのものが広がりました。

HPALを安定稼働できる企業は、資源の質に依存しにくく、長期的な供給計画を描くことが可能になります。住友金属鉱山にとってHPALは、単にコストを下げるための技術ではなく、資源制約という課題に対し、技術で選択肢を増やすための戦略装置なのです。

HPAL技術の本質は、低品位鉱石からニッケルを回収できることだけではありません。高温・高圧条件下で化学反応を精密に制御することで、ニッケル中の不純物を抑え、用途に適した成分設計が可能になる点にあります。電池材料では、微量不純物が性能や寿命、安全性に影響を及ぼすため、「高純度」であること以上に、品質のばらつきを抑え、安定して供給できることが求められるのです。

最終価値へのつなぎである高ニッケル正極材

EVの走行距離や出力、安全性を大きく左右するのが、電池の正極材の品質です。正極材に含まれるニッケルの割合が高いほど、航続距離を伸ばしやすいとされています。

一方で、ニッケル含有量を高めるほど、材料の劣化や品質ばらつきが起きやすくなります。高ニッケル化と同時に、結晶構造の安定性や不純物管理をどこまで徹底できるかが、実用性能を左右するのです。

住友金属鉱山は、原料段階から最終材料までを一貫して管理することで、この課題に対応しています。製錬段階でニッケルの成分や不純物を精密に制御し、その特性を踏まえた材料設計へとつなげることで、高ニッケル化と品質安定を両立しています。

また、量産を前提とした工程設計も重要です。研究開発レベルでは実現できても、量産時に品質ばらつきが生じるケースは少なくありません。同社は長年の供給実績を通じて、高ニッケル正極材を安定して大量生産するノウハウを蓄積してきました。高ニッケル正極材を「作れる」だけでなく、「安定して供給できる」点が信頼性につながっているのです。

まとめ

ニッケルは、採掘できるかどうかだけで価値が決まる資源ではありません。
EV・電池向け需要が拡大する中で、製錬や材料といった工程でどれだけ価値を高められるかが重要になっています。

住友金属鉱山は、上流から下流までを一貫して手がけ、HPAL技術によって低品位鉱石を活用しつつ、高ニッケル正極材という形で最終価値までつなげています。これは、ニッケルを「原料」ではなく「用途を前提とした素材」として扱っている点に特徴があります。

ニッケル投資を考える際には、鉱山の有無だけでなく、中流・下流で価値を生み出せる企業かどうかを見る視点が欠かせません。その意味で、住友金属鉱山はニッケルの価値創出の要所を押さえている企業と言えるでしょう。

【出典】

楽天証券 住友金属鉱山株式会社 個人投資家向けIRセミナー
https://www.youtube.com/watch?v=kzy5nP9BEho&list=LL&index=3

JOGMEC 世界のニッケル需給と今後の動向
https://mric.jogmec.go.jp/reports/mr/20190820/114881/

住友金属鉱山 事業紹介
https://www.smm.co.jp/business/

WIPO 電気ニッケルめっき液中の希土類不純物の除去方法
https://patentscope.wipo.int/search/ja/WO2013047340

住友金属鉱山 ニッケルを回収するHPAL技術
https://www.smm.co.jp/sustainability/activity_highlights/article_12/

JOGMEC 令和3年度第2回JOGMEC金属資源セミナー 
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