多くの鉱山株銘柄を取り扱うカナダのTSX、TSX-V市場とは?

September 5, 2025

世界の鉱業投資において、カナダのTSX(トロント証券取引所) とTSX-V(TSXベンチャー取引所) は、多くのグローバル鉱業企業がこれらの取引所に上場しており、世界中の鉱山会社の約40%がカナダの証券市場に集結しています。

本記事では、カナダの証券市場の構造や特徴、世界の鉱業企業がなぜこの市場を選択するのか、そして日本人投資家がこれらの市場にどのようにアクセスできるかについて解説します。

TSXとTSX-Vの基本情報

カナダの証券市場は、トロント証券取引所 (TSX) とTSXベンチャー取引所 (TSX-V) という二つの主要な取引所から構成されており、それぞれの市場は企業の成長段階に応じた役割を担っています。

カナダの主要な証券取引所

取引所 特徴
TSX(Toronto Stock Exchange) カナダ最大の証券取引所。約1800社が上場。鉱業・金融・エネルギー企業が多い
TSX-V(TSX Venture Exchange) 成長段階にある企業、特に資源探査などのベンチャー企業に特化した取引所

TSXの代表的な株価指数

指数 特徴
S&P/TSX 60 Index(トロント60指数) TSX上場企業の中から、大型で流動性が高く、セクターを代表する60社で構成される株価指数
S&P/TSX Composite Index(コンポジット指数) TSX全体の主要な株価指数(200~250社が対象)。「カナダ版TOPIX」的な位置づけ。

歴史と規模

カナダのシニア(主要) 株式市場であるトロント証券取引所 (TSX)は、1878年にオンタリオ州の法律に基づき株式会社化されました。実に140年以上の歴史を持つ由緒ある取引所です。

一方、TSXベンチャー取引所 (TSX-V)は、成長段階にある企業、特に資源探査などのベンチャー企業に特化した取引所です。TSX-Vで実績を積んだ企業が成長してTSXにステップアップするというシステムになっています。

会員会社数と鉱山会社の割合

ナスダックによる2025年2月時点の統計によると、TSXとTSX-Vの会員会社数と鉱山会社の割合は以下の通りです。

  • TSX:1859社が上場 (うち181社が鉱山会社)
  • TSX-V: 1572社が上場 (うち905社が鉱山会社)

特にTSX-Vでは上場企業の約58%が鉱山会社であり、探鉱段階のジュニア鉱山会社の集積地となっていることがわかります。

S&P/TSX総合指数の構成

トロント証券市場の中核となるのが「S&P トロント60指数」で、カナダを代表する大企業60社で構成されています。この指数とS&P/TSXコンプリーション指数を組み合わせると、S&P/TSXコンポジット指数というカナダの代表的なベンチマーク指数となります。この指数には約250社が含まれ、トロント証券取引所の時価総額全体の約70%を占めています。

S&P/TSX総合指数の総合指数セクター別構成を見ると、金融(32.86%)、エネルギー (16.12%)、そして素材 (12.88%)の3セクターで全体の約62%を占めており、カナダ経済における資源セクターの重要性がわかります。情報技術セクターも10.08%と一定の存在感を示しています。

出典:TSX.com

このように、カナダ経済において鉱業分野は重要な産業となっていることがわかりますが、具体的にどんな鉱山会社が上場しているのでしょうか。

TSXに上場している主要な鉱山会社

TSXは、上場している企業の種類も、グローバルな鉱山開発や資源生産を行う業界リーダーから成長途上の中堅企業まで多岐にわたります。

2025年3月31日時点のTSX上場鉱山会社トップ20を見てみましょう。

TSX上場鉱山会社トップ20 (2025年3月31日時点)

順位 会社名 ティッカー 時価総額
1Agnico Eagle Mines LimitedAEM784.2億カナダドル
2Newmont CorporationNEM / NGT782.9億カナダドル
3Wheaton Precious Metals Corp.WPM506.6億カナダドル
4Barrick Gold CorporationABX / GOLD482.1億カナダドル
5Franco-Nevada CorporationFNV435.8億カナダドル
6Nutrien Ltd.NTR349.1億カナダドル
7Teck Resources LimitedTECK.B263.5億カナダドル
8Cameco CorporationCCO257.9億カナダドル
9Kinross Gold CorporationK223.1億カナダドル
10Ivanhoe Mines Ltd.IVN165.3億カナダドル
11Alamos Gold Inc.AGI161.7億カナダドル
12First Quantum Minerals Ltd.FM161.4億カナダドル
13Pan American Silver Corp.PAAS144.6億カナダドル
14Lundin Gold Inc.LUG107.2億カナダドル
15Lundin Mining CorporationLUN101億カナダドル
16Endeavour Mining plcEDV84.2億カナダドル
17Osisko Gold Royalties Ltd.OR56.7億カナダドル
18Capstone Copper Corp.CS56.5億カナダドル
19Triple Flag Precious Metals Corp.TFPM55.3億カナダドル
20B2Gold Corp.BTO53.9億カナダドル

出典:TSX.com

これらの企業の多くは、TSX以外にもNYSEやNASDAQなどの米国市場にも上場しており、日本の投資家にとっても比較的アクセスしやすくなっています。TSXに上場する企業は金だけでなく、銀、銅、ウラン、レアメタルなど、様々な鉱種を扱っており、資源投資のポートフォリオを多様化させる機会を提供しています。

TSXとTSX-Vの上場基準の特徴

TSXとTSX-Vの大きな特徴の一つは、鉱山会社の発展段階に応じた柔軟な上場基準を設けていることです。これにより、探鉱段階の企業から生産段階の大手企業まで、様々な成長段階の鉱山会社が上場できる環境が整っています。

鉱業セクターの資金調達状況

TSXとTSX-Vは鉱山会社にとって重要な資金調達の場となっています。直近の資金調達状況を見てみましょう。

マーケットごとの過去5年間における株式資金調達額(10億ドル単単位)

出典:TSX.com

TSX/TSXV (カナダ):43.2億米ドル

ASX(オーストラリア):42.4億米ドル

NYSE/NYSEアメリカン(米国):11.4億米ドル

LSE/AIM (ロンドン):5.9億米ドル

HKEx(香港):4.3億米ドル

これらの図表は、鉱山投資の世界的ハブとしてのカナダの地位を裏付けており、特にジュニア鉱山会社(探鉱段階の小規模企業)にとってTSXとTSX-Vが重要な資金調達の場となっていることを示しています。カナダの証券市場は、世界中の鉱山プロジェクトに資金を提供する重要な役割を果たしていると言えます。

TSXとTSX-Vの上場基準

カナダの証券市場の大きな特徴の一つは、企業の発展段階に応じた柔軟な上場基準です。鉱山会社は、探鉱段階から生産段階まで、各成長フェーズに適した市場を選べます。

TSX (トロント証券取引所)の上場基準

TSXでは鉱山会社の発展段階に応じて、3つのカテゴリーの上場基準が設けられています。以下に主な上場要件をまとめました。

TSXの上場要件

項目 条件
最低時価総額 例:C$50万〜C$75万以上(セクターや部門により異なる)
純資産 例:少なくともC$200万以上
株主数 例:少なくとも150人以上の株主
発行済株式数 十分な流動性を確保できる発行済株式数(例:100万株以上)
業績基準 収益基準(利益が一定額以上)または成長基準(資金調達計画がある企業)
その他 監査済み財務諸表、ガバナンス基準の遵守など

※ドル表記はカナダドルを意味する。
出典:TSX.com

TSX-V (TSXベンチャー取引所)の上場基準

TSX-Vでは、Tier1とTier2という2つのカテゴリーがあります。

項目 条件
最低時価総額 約C$5万〜C$7.5万(業種・カテゴリにより変動)
純資産 約C$75万以上
株主数 少なくとも200名以上の株主
流動性 十分な流通株式数(例:50万株以上)
財務基準 事業計画を実行できる資金を有していること。監査済み財務諸表の提出。
その他 ガバナンス要件の遵守、上場審査プロセスを通過する必要あり

※ドル表記はカナダドルを意味する。

出典:TSX.com

これらの段階的な上場基準により、小規模な探鉱企業でも比較的容易に資本市場にアクセスでき、成長に伴ってTier2からTier1へ、さらにはTSX-VからTSXへとステップアップしていくパスが明確に示されています。

日本人投資家のための投資方法

大手鉱山株への投資方法

TSXに上場している大手鉱山会社の多くは、米国市場(NYSEやNASDAQなど) にも重複上場しています。アメリカのオンライン証券会社 (日本語サポート有り)を利用すれば、カナダのS&P トロント60指数の構成銘柄に安価に投資できます。取引単位の制限がなく、1株から自由に売買でき、空売りやオプション取引も可能です。

以下の日本国内の主要ネット証券でも、米国市場に上場している銘柄であれば比較的簡単に購入できます。

  • SBI証券
  • 楽天証券
  • マネックス証券
  • 松井証券

例えば、バリック・ゴールド(GOLD)、ニューモント (NEM)、ティエック・リソーシズ (TECK) などの大手企業は、日本の証券会社を通じて米国株として購入可能です。楽天証券では、米国株約1万銘柄の中にカナダ企業も200社以上含まれています (2024年時点)。

ジュニア鉱山株への投資方法

一方、TSXベンチャー取引所 (TSX-V) に上場しているジュニア鉱山株の多くは、米国市場に上場しておらず、日本の証券会社からは直接購入できません。こうした企業に投資するには、海外の証券口座を開設する必要があります。

カナダ株の取り扱いがある代表的な海外証券会社としては、

  • Interactive Brokers (IB証券)
  • Questrade (カナダ)
  • Wealthsimple Trade (カナダ)

などが挙げられます。

特にIB証券は、手数料が安く、取扱銘柄が幅広く、オンラインで完結するため、日本人投資家にとって利便性が高いとされています。TSX-Vに上場する探鉱段階の小規模企業 (ジュニア企業)への投資には、こうした海外証券会社の口座開設が必須となります。

IB証券の詳しい利用方法に関しては、下記の記事を参照にしてください。

カナダの鉱山株へ幅広く投資するならインタラクティブ・ブローカーズ証券がおすすめの理由

まとめ

TSXとTSX-Vは、世界中の鉱山会社が集まり、成長ステージに応じた資金調達が可能な、カナダ独自の二層構造の証券市場です。TSXには大手鉱山会社が上場し、投資家にとって安定した資源株の投資先となっています。一方、TSX-Vは探鉱段階の企業が多く、ハイリスク・ハイリターンの投資機会を提供します。

上場企業数、鉱山会社の割合、資金調達額のいずれにおいても、カナダの証券市場は鉱業分野で世界をリードしています。鉱山株に関心があるなら、この2つの市場構造を理解することが、確かな投資判断への出発点となるでしょう。

次回の記事では、カナダの代表的な鉱山会社とジュニア鉱山会社の関係について、さらに掘り下げて解説します。

【出典】

JOGMEC カナダ市場と鉱業の特徴 

chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://mric.jogmec.go.jp/wp-content/old_uploads/reports/resources-report/2007-07/MRv37n2-07.pdf

Nasdaq Top 5 Canadian Mining Stocks This Week: Foremost Clean Energy Powers 133 Percent Gain
https://www.nasdaq.com/articles/top-5-canadian-mining-stocks-week-foremost-clean-energy-powers-133-percent-gain

TMX Capitalize on Opportunity
https://www.tsx.com/en/listings/listing-with-us

TMX 2025 Guide to Listing
https://www.tsx.com/ebooks/en/2025-guide-to-listing/

TMX S&P/TSX Composite Index
https://www.tmxinfoservices.com/benchmarks-and-indices/sp-tsx-indices?indexinfo=%5ETSX#tsx

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