なぜカナダは鉱山ビジネスが盛んなのか?その特徴と強みを解説

September 5, 2025

なぜカナダは鉱山ビジネスが盛んなのか?その特徴と強みを解説

カナダが世界でも有数の鉱業大国であることは、多くの方がご存知かもしれません。では、なぜカナダは鉱山ビジネスでこれほど特別な地位を築いているのでしょうか?この記事では、カナダの鉱業が国際的に見てなぜ際立っているのか、その豊かな資源、金融システム、そして投資環境の魅力について触れながら解説します。

世界有数の多様な鉱物資源保有国

カナダは北米大陸の広大な国土に、多様で豊富な鉱物資源を有しています。2022年、カナダの天然資源富(厳選された天然資源埋蔵量のドル換算額)は史上最高の2兆5560億ドルに達し、これらの資源は国の経済基盤として名目GDPの19.2%を占め、約170万人の雇用を創出しています。

この資源大国は実に60種類以上の鉱物と金属を約200の鉱山と6500の砂利・砕石場から生産しており、多くの重要鉱物において世界トップクラスの生産量を誇ります。特筆すべきは、カリウムの生産量が2187万トンで世界第1位、金・ウラン・コバルトがいずれも世界第4位、ニッケルとリチウムが第6位、鉄鉱石が第8位という圧倒的な実績です。中でもカリウムは2022年の生産額が168億ドルと、カナダの単一鉱物生産額としては最高を記録しています。

さらに、カナダはダイヤモンド、宝石、インジウム、ニオブ、白金族金属、チタン精鉱においても世界トップ5に位置する生産国であり、まさに「資源の宝庫」と呼ぶにふさわしい多様性と規模を備えています。

主な鉱物資源 生産量 生産量順位(世界)
カリウム2187万トン1位
191.9トン4位
ウラン4817トン4位
コバルト5100トン4位
ニッケル15万8668トン6位
リチウム93万トン6位
鉄鉱石5900万トン8位

出典:Government of Canada Mining data, statistics and analysis

EVバッテリー素材の供給基地としての優位性

最近世界中で注目を集めているのが、電気自動車(EV)のバッテリーに使われる素材ですが、カナダはこの分野でも大きな強みを持っています。例えば、バッテリーに適した品質の高い水酸化リチウムを生産できる高純度の硬岩鉱床があり、国内には推定300万トンものリチウム資源が眠っているとされています。ニッケルについても、銅やコバルト、金、白金族金属といった他の金属と一緒に産出されるため、コスト競争力が高く、世界第2位の低コスト生産国となっています。

さらに、北米における天然の薄片状グラファイト(黒鉛)の重要な供給源としても期待されています。これは、バッテリーの負極材など、より価値の高い製品への応用が可能です。こうした背景から、カナダは北米のバッテリーサプライチェーンにおいて、中心的な役割を担う存在として、その地位を確固たるものにしつつあります。

世界の鉱山会社が集まる金融市場

カナダの鉱業セクターにおいて特に際立っているのが、その金融システムです。トロント証券取引所(TSX)およびTSXベンチャー取引所(TSXV)は、鉱山会社にとって世界の主要な上場市場となっています。2022年には1121社を超える発行体が上場し、世界の上場企業の40%を占めています。

同じく2022年には、鉱物探査・採掘のための世界の株式資本総額の約45%(76億ドル)が、TSXまたはTSXVに上場している企業によって調達されました。この金額は世界の鉱業エクイティ・ファイナンス件数の53%を占めており、カナダは鉱業および鉱物探査のための資金調達において、世界第1位の地位を確立しています。

数多くのジュニア鉱山会社の存在

カナダの鉱業セクターの特徴的な側面が、「ジュニア企業」と「シニア企業」の分業体制です。ジュニア企業は主に探鉱段階に携わる企業で、カナダには多くのジュニア企業があり、その数はシニア企業(少なくとも1つの鉱山を生産している企業)の最大7倍にも達します。

カナダはまさに探鉱ジュニア企業の世界的ハブとなっており、2020年にはジュニア企業が探鉱に10億3000万カナダドルを費やし、カナダのプロジェクトの71%とプロジェクト運営者の80%を占めました。このようなジュニア企業の活発な活動が、新たな鉱床発見のイノベーションを牽引しています。

なぜカナダがジュニア鉱山会社を強く支援するのか

カナダ政府が、まだ実績の少ないジュニア鉱山会社を積極的に後押しするのには、しっかりとした理由があります。それは、米中間の対立や、資源を持つ国が自国優先の動きを強める「資源ナショナリズム」が高まる中で、カナダは戦略的に重要な資源を確保しようとしているからです。

実際、カナダ政府は「重要鉱物リスト」を作成しており、そこには31種類の鉱物・金属が含まれています。これらは、「国と貿易パートナーの経済安全保障にとって不可欠」なものとして位置づけられています。

投資を活発にする独自の税制優遇制度

カナダの鉱業が国際的な競争力を持つもう一つの大きな理由が、他国にはあまり見られない手厚い税制優遇措置です。特に投資家にとっても魅力的な、以下の制度がキーポイントとなります。

  • フロースルー株式 (Flow-Through Shares, FTS) 制度
  • 鉱物探鉱税額控除 (METC) と重要鉱物探鉱税額控除 (CMETC)
  • カナダ探鉱費用 (CEE) ・ 開発費用 (CDE) の全額控除制度

それぞれ詳しく解説します。

フロースルー株式(Flow-Through Shares, FTS)制度

このFTS制度は、世界的に見ても非常にユニークな仕組みです。簡単に言うと、鉱山会社が探鉱や開発にかかった費用を、株式を購入した投資家に「譲渡」するような形で、投資家がその費用分を自身の所得から控除(税金の対象となる所得を減らすこと)できるようにするものです。

投資家にとっては、投資額の100%を控除できるだけでなく、場合によっては追加で15~30%もの税額控除(納めるべき税金から直接差し引かれること)を受けられるケースもあります。これにより、まだ成功するかどうかわからない探鉱の初期段階であっても、リスクを取って投資するお金が集まりやすい環境が生まれています。これはカナダ特有の、鉱山ビジネスを支える資金循環システムの核となっていると言えるでしょう。

鉱物探鉱税額控除(METC)と重要鉱物探鉱税額控除(CMETC)

通常のFTSによる控除に加えて、探鉱費用の15%をさらに税額控除できる「鉱物探鉱税額控除 (METC)」という制度があり、2027年まで延長されることが決まっています。

さらに、カナダ政府が特に重要視している戦略的な鉱物(リチウム、ニッケル、レアアースなど15種類)の探鉱に対しては、なんと30%もの税額控除が適用される「重要鉱物探鉱税額控除 (CMETC)」も新たに設けられました。これにより、グリーンエネルギーへの移行やEV(電気自動車)の普及に不可欠な鉱物など、国策として重要な分野への投資がより一層促進されることになります。

カナダ探鉱費用(CEE)・開発費用(CDE)の全額控除制度

「カナダ探鉱費用 (CEE)」は、発生した費用の100%をその年のうちに控除でき、もし控除しきれなくても無期限で翌年以降に繰り越すことが可能です。「カナダ開発費用 (CDE)」は、毎年30%ずつ定率法で控除できます。これらの制度もFTSと連動しており、鉱山会社側のキャッシュフローを改善すると同時に、投資家にもメリットがあるように設計されています。

投資家に開かれた投資環境と優れたリスク管理

カナダは、鉱物資源の開発や投資に対して非常にオープンな姿勢を持っています。外国企業がカナダで鉱物・金属分野の新規事業を立ち上げたり、既存の事業を買収したりする際の障壁はほとんどありません。地質に関する詳細な情報や鉱物・金属に関する統計データも広く公開されており、誰でも簡単にアクセスできるようになっています。

また、カナダの鉱業セクターが持つ大きな強みの一つが、投資リスクを効果的に管理する仕組みです。鉱業プロジェクトの成功にとって最大のリスクの一つである「社会的受容性」の問題に対して、カナダは効果的な解決策を提供しています。実際、2000年から2020年の間に、500以上もの協定が鉱業企業と先住民コミュニティの間で結ばれました。これにより、プロジェクトの地域社会への受け入れがスムーズになり、長期的な事業安定性が確保されています。

さらに、環境・社会・ガバナンス(ESG)への取り組みも積極的に進められており、カナダ鉱業協会主導の「Towards Sustainable Mining」イニシアチブなど、業界全体でリスク管理と持続可能性を高める標準化が進んでいます。これらの取り組みは、単なる社会貢献ではなく、長期的な投資リスクを低減し、国際的な投資家からの信頼を獲得するための戦略的な優位性となっています。

つまり、カナダの鉱業セクターは、単に資源が豊富なだけでなく、「投資しやすい環境」と「長期的なリスク管理の仕組み」を兼ね備えていることで、世界中の投資家にとって魅力的な投資先となっているのです。

まとめ

カナダの鉱業セクターは、豊富な資源、世界をリードする金融システム、独自の税制優遇措置、そして持続可能性への取り組みが絶妙に組み合わさった環境を作り出しています。特に次のような特徴が、カナダを世界的な鉱業ハブとして際立たせています。

  1. 世界有数の多様な鉱物資源保有国:60種類以上の鉱物を生産し、多くの重要鉱物で世界トップ10に入る生産量
  1. 世界の鉱山会社が集まる金融市場:世界の鉱業上場企業の43%を擁するTSXとTSXV
  1. 数多くのジュニア鉱山会社の存在:探鉱に特化した多数のジュニア企業による新規鉱床発見の推進
  1. 投資を活発にする独自の税制優遇制度:フロースルー株式や税額控除など、世界でも稀有な制度設計
  1. 投資家に開かれた環境と優れたリスク管理:オープンな投資環境:外国企業への低い参入障壁と豊富な地質情報、効果的な社会リスク管理

これらの強みにより、カナダは単に「資源が豊富な国」という枠を超え、鉱業のグローバルハブとしての地位を確立しています。特に重要鉱物やバッテリーメタルなど次世代技術に不可欠な資源の開発において、カナダの優位性は高まっていると言えるでしょう。

次回は「トロント証券取引所(TSXとTSX-V)とは何か?」と題して、カナダの鉱業金融の中心となる証券市場の仕組みを詳しく解説します。

【出典】

Government of Canada Mining data, statistics and analysis
https://natural-resources.canada.ca/minerals-mining/mining-data-statistics-analysis

Government of Canada Natural Resources Canada
https://natural-resources.canada.ca/

Invest In Canada 31 REASONS TO INVEST IN CANADA’S MINING OPPORTUNITIES

https://www.investcanada.ca/news/31-reasons-invest-canadas-mining

Invest In Canada SPOTLIGHT ON MINING

chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.investcanada.ca/sites/default/files/pitchbooks/files/SpotlightOnMiningCanada_EN.pdf

TSI Wealth Network “10 Secrets of Investing in Junior Mining Stocks”
https://www.tsinetwork.ca/daily-advice/mining-stocks/10-secrets-investing-junior-mining-stocks/

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