米国の雇用統計の低迷を受け、金価格が急騰

August 10, 2026

本記事は、Canadian Mining Report にて Ben McGregor 氏が執筆した“Weekly Roundup” の内容を翻訳・再構成したものです。  

米国の雇用情勢悪化を受け、金価格が急騰

金価格は、市場予想を大きく下回る米国の雇用統計の悪化と、中東情勢の緊張緩和によりインフレと利上げへの期待が低下したことを受け、7.2%急騰し、1オンスあたり4,341ドルとなった。

金は、株式市場の高騰や信用スプレッドの低迷といったリスクをヘッジする可能性がある

株式市場が高値圏で推移するなか、株価のバリュエーションも歴史的な高水準にある。一方、信用スプレッドは極めて低く、市場の警戒感が薄れていることを示している。こうした状況は過去に大幅な相場反転につながることも多く、金はそのリスクに対する有力なヘッジとなり得る。

金関連株は過去10年間で最も好調な週を記録

金関連株は過去10年間で最も大きな上昇を記録し、GDXは21.3%、GDXJは23.3%上昇した。株式市場全体も堅調で、S&P500は3.8%上昇して史上最高値を更新し、ナスダックは4.9%、ラッセル2000は3.4%上昇したが、金関連株はこれらを大きく上回るパフォーマンスとなった。

図1:金先物価格の週間パフォーマンス

図2:金鉱株ETF

図3:金先物および金鉱株ETFの価格パフォーマンス

金価格は7.2%上昇し、1オンスあたり4,341米ドルとなった。週間ベースでは2026年1月第3週以来最大の上昇率である。金価格はそれまで6週間にわたり、4,000米ドルをわずかに上回る水準で推移していた。主な上昇要因は米国の雇用統計の悪化とみられるが、それ以前から金価格には反発余地が蓄積していたと考えられる。

金価格は2026年1月28日のピークである5,302米ドルから、7月16日の安値である3,986米ドルまで24.8%下落していた。この下落には価格を押し下げるファンダメンタルズ要因が影響していたものの、その多くはすでに市場に織り込まれたとみられる。また、年初に見られた過度な投機的ポジションの解消も、約2か月前にはほぼ完了していたようだ。

こうした下落要因の一つが、金価格と逆相関する傾向がある実質利回りの上昇である。市場では、今後FRBが利上げを実施すれば実質利回りがさらに上昇し、金価格への下押し圧力が強まるとの懸念があった。

ただし、この見方は、米国の雇用市場が引き続き堅調に推移し、原油価格の高騰によってインフレ圧力が強まり、FRBが利上げを迫られるとの前提に基づいていた。今回、米国の雇用統計が予想を大きく下回ったことに加え、中東情勢にも沈静化の兆しが見られたことで、こうした利上げ観測は大幅に後退した。

実際、2026年9月の利上げ確率は従来の81%から44%へ、10月の利上げ確率も87%から59%へ急低下した。市場は、今後数か月以内の利上げをほぼ確実視していた状況から、一気に不透明感の強い局面へと移行している。

今後、米国の雇用指標の悪化が続き、中東情勢の安定も長期化すれば、わずか1週間前の見通しとは大きく異なり、2026年中にFRBが利上げを実施しない可能性も出てくる。

図4、5:米国ADP雇用者数の推移、米国BLS非農業部門雇用者数の推移

2026年7月に発表された米国の主要雇用統計はいずれも、6月から大きく悪化し、市場予想も大幅に下回った。

週末に発表されたADP雇用統計では、雇用者数は4万8,000人増となったものの、市場予想の7万5,000人増を下回った。前月の9万5,000人増や、2026年5月の12万2,000人増からも大きく減少している(図4)。

一方、週半ばに発表された米労働統計局(BLS)の雇用統計では、雇用者数が2万3,000人減となり、市場予想の8万3,000人増を大きく下回った。2026年3月の21万4,000人増からも大幅に悪化しており、今回の金価格急騰の主な要因になったとみられる(図5)。

株式市場の高騰とクレジットスプレッドの低迷は、警告サインとなる可能性がある

金利が据え置かれるとの見方や原油価格の下落を背景に、株式市場は大幅に上昇した。S&P500は3.8%上昇し、2026年6月から7月にかけて伸び悩んでいたものの、ついに史上最高値を更新した。

ナスダックも4.9%と大幅に上昇した。ただし、2026年6月初旬につけた高値にはまだ届いていない。今回の上昇に先立つ7月後半には、AI関連株への売り圧力を背景に大きく下落していた(図6)。ラッセル2000も3.4%上昇し、週半ばには史上最高値を更新したものの、週末にはその水準をわずかに下回った(図7)。

しかし、こうした株価上昇が必ずしも市場の健全性を示しているとは限らない。株価とともにバリュエーションも歴史的な高水準まで上昇しており、市場の割高感が強まっているためである。

S&P500の株価純資産倍率(PBR)は6.16倍に達しており、ドットコムバブル期の1999年につけた5.05倍を大きく上回っている。その後、S&P500のPBRは約10年をかけて2.0倍前後まで低下した(図8)。

一方、ナスダックのPBRは4.39倍となっている。世界的な健康危機を背景に多くのハイテク企業の利益が急増した2021年のピークである5.48倍は下回っているものの、過去20年間と比較すれば依然として非常に高い水準である(図9)。

特に、現在の高いバリュエーションを支える主要因となっているAI関連株については、今後も高い利益成長と株価倍率を維持できるのか、市場で懸念が強まりつつある。

図6、7:S&P500ETFとナスダックETFのパフォーマンス

図8、9:S&p500とナスダックの株価純資産倍率(PBR)

図10、11:ムーディーズAAA格社債、BAA各社債と米国10年国債の利回りスプレッド

市場がリスクを十分に織り込んでいない可能性を示すもう一つの警告サインが、極めて低い信用スプレッドである。

ムーディーズAAA格社債と米国10年国債の利回りスプレッドは、2024年末の0.7%を底に1.2%まで上昇したものの、過去40年間と比較すれば依然として非常に低い水準にある。過去には、こうした低水準の後に信用スプレッドが大きく拡大するケースがたびたび見られた(図10)。

さらに、より信用リスクの高いムーディーズBAA格社債と米国10年国債の利回りスプレッドは1.5%にとどまっている。これは2024年11月につけた1.4%に近く、1990年代半ば以降で最低水準にある(図11)。

こうした状況は、市場が現在の強気相場の継続を強く織り込んでいる可能性を示している。しかし、その見方が崩れた場合のリスクは高まっていると考えられ、金はそうした市場反転に対するヘッジ手段となり得る。

貴金属全般は大きく回復

貴金属市場も幅広く回復し、銀、プラチナ、パラジウムが大きく上昇した。これら3つの金属はいずれも金の-18.6%下落を下回り、それぞれ-27.0%、-24.2%、-22.0%下落した。また、アルミニウム、銅、亜鉛がそれぞれ5.3%、9.3%、12.6%上昇したほとんどの非鉄金属の上昇率を大きく下回った(図12)。しかし、今週の回復は、市場がヘッジとして金融主導の金属に回帰している可能性を示唆している。

図12:貴金属価格の推移

図13:金銀価格比率(金銀比価)

銀価格が比較的底堅く推移している背景には、金銀比価が低い水準にあることも影響している可能性がある。現在の金銀比価は67.7倍で、2021~2026年の平均である79.9倍を大きく下回っている(図13)。同指標は2025年4月に104.7倍まで上昇した後、2026年1月には45.9倍まで低下するなど大きく変動していたが、今年に入ってからはより均衡した水準に落ち着きつつある。

貴金属価格の急騰を受け、貴金属関連株も過去10年間で最大級の週間上昇を記録した。金鉱株で構成されるGDX ETFは過去1週間で21.3%上昇し、過去10年間で最大の上昇率となった。これに次ぐ上昇率は2025年初頭の19.2%である(図14)。

ジュニア金鉱株で構成されるGDXJはさらに大きく上昇し、週間で23.3%高となった。2025年初頭に記録した19.2%を上回り、こちらも過去10年間で最大の週間上昇率となっている(図15)。

銀鉱株で構成されるSIL ETFも週間で20.0%上昇し、2025年後半に記録した19.5%をわずかに上回って、過去10年以上で最大の週間上昇率となった(図16)。

図14:GDX ETFの週間騰落率

図15:GDXJ ETFの週間騰落率

図16:SIL ETFの週間騰落率

図17、18:メジャー金鉱株とTSXVのジュニア金鉱株

メジャー金鉱株は数年ぶりの大幅上昇、TSXV上場の金関連銘柄も上昇

メジャー金鉱株の多くは、ここ数年で最大の週間上昇率を記録し、グループ全体で10.0%以上上昇した。約半数の銘柄は20.0%以上の上昇となった。TSXV上場の金関連銘柄も大半が急騰し、Artemis、Omai、Heliostar、GoldGroupは20%以上、MakoとAsanteは30%以上上昇した(図17、18)。

主にカナダ国内で事業を展開するTSXV上場の金関連企業では、Artemis Goldが2026年第2四半期決算を発表し、金生産量は74,063オンス、売上高は4億3,360万ドル、純利益は1億9,970万ドルとなった。Osisko GoldはCaribooプロジェクトのProsperineゾーンでの掘削結果を発表した。また、Amex Goldは40,000トンのバルクサンプルプログラムに向け、Perronにおける坑内アクセス用ポータル建設のための掘削・発破作業を完了した(図19)。

主に海外で事業を展開するTSXV上場の金関連企業では、Asante GoldがBibianiおよびChirano金鉱山の資源量推定値の更新、2026年の生産ガイダンス、操業状況の最新情報を発表した。GoldskyはBarseleのCentral ZoneとAvan Zoneから採取したサンプルの冶金試験を開始した。Thor ExplorationsはSegilola鉱山の既存鉱床下部における掘削結果を発表した。

Heliostar Metalsは2026年第2四半期決算を発表し、St. AgustinとLa Coloradaで金14,803オンス、銀79,710オンスを生産したほか、売上高5,650万ドル、純利益4,300万ドルを計上した。Founders MetalsはAntinoプロジェクトのUpper Antinoターゲットにおける掘削結果を発表した(図20)。

図19:カナダ国内におけるジュニア金鉱会社の最新情報

図20:カナダの海外展開ジュニア金鉱会社の最新動向

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著者:Ben McGregor

Ben McGregor 氏は、CanadianMiningReport.com において「Weekly Roundup」を執筆している分析者であり、金属・鉱業セクターに関する鋭い視点で知られている。市場トレンドを見抜く能力に長け、複雑な市場の動きを TSXV(トロント・ベンチャー取引所)のジュニア鉱山企業を中心に、簡潔かつ分かりやすい洞察へと落とし込んでいる。

毎週のレポートでは、金・銅・ウランなど幅広いテーマを扱い、データに基づく分析と投資機会を見極める視点を組み合わせて、読者に価値ある情報を提供している。ダイナミックに変動するジュニア鉱山セクターにおいて、投資家にとって重要な情報源となっている人物である。

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